旅がらす2022 山口~広島~福島

この所、安田登先生と旅回りをしていました。たかだか一週間程でしたが、やっぱり旅は良いですね。
梅雨という事もありちょっと絃が湿気を吸っていて、会場によっては鳴りが悪かったのですが、演奏はまずますずといった所で、どの会場も気持ち良く演奏が出来ました。

数楽の風

2022山口数楽の杜m先ずは山口。数楽の風という私塾での演奏でした。会場は御覧の通りお寺を移築した所ですので、雰囲気も良く良い雰囲気でした。レクチャーで敦盛最期の場面をやるとのことで、急遽拙作敦盛の短縮版をやったのですが、ちょっと準備が足りず残念でした。やはり時代に合わせ、短縮版も用意しておかないといけませんね。良い勉強になりました。皆さんとても熱心に聴いていられて、会の雰囲気がとても良かったです。琵琶も実際に手に取ってもらって、会話が弾みました。

2022山口壇之浦m2022山口22022山口1m

次の日は時間がありましたので壇ノ浦に連れて行ってもらいました。ここはやはり私にとって特別な場所です。鶴田錦史の作った壇ノ浦(弾き語り曲)が無ければ、今の私は無いと思います。私は弾き語りを専門にしている訳ではありませんが、あの曲の先進性があればこそ、今の私のスタイルが出来上がったと深く感じています。実際私は他の方と違い、壇ノ浦チューニングと呼ばれている鶴田錦史が考案した、あの独特のチューニングで、活動を始めた最初から全ての曲を演奏しています。他の琵琶奏者のように手前に高い音を持ってくる従来の調弦は一切使ったことがありません。それくらい鶴田錦史の作った壇ノ浦の琵琶曲は私にとっての基本なのです。ただ私は鶴田錦史のスタイルや演奏、声は好みではないので、音色もフレーズも声も真似するという発想はありませんでした。あの曲の持つ最先端を突き進むエネルギーや細部に溢れる現代性はしっかりつかんでいますが、曲は自分で創りました。久しぶりに壇ノ浦を見て、この30年程が色々と湧き上がってきましたね。

そしてその後は、壇ノ浦のすぐ裏側にある平家の隠れ里、高畑に行ってきました。結構山深い所で、平家塚というかなり寂しい感じの石碑があり、少し歩くと霊神社という名前のこれまた何とも、時に忘れさられたような風情の鳥居と祠がありました。この高畑地域は、壇ノ浦のすぐ近くという事で、隠れ家としてはかえって見つかりにくかったそうで、古くからずっと存在する歴史のある集落とのことでした。
山口では大変ご馳走にもなり、過分なおもてなしを頂きました。感謝しかないですね。

広島女学院2022

安田登先生と広島女学園の特別授業にて HPから切り抜かせて頂きました

次の日は広島へ。広島女学園というキリスト教系の学校で、700名の女子高生を前に演奏してきました。以前甲南女子大で数百名の女子大生を前に90分の講演を一人でやったことがありますが、人が集まるというのは凄いエネルギーですね。しかし安田登先生はとにかくレクチャーの天才ですので、女子高生たちもなかなか乗りが良く、先生方も大喜び。この学校は大変品性正しい学校でもあり、とても純粋なエネルギーに満ちていたので、こちらもとても気持ち良く演奏出来ました。
一日置いて最後は福島の郡山。倉庫協会という業界団体の75周年記念パーティーでの講座だったのですが、安田先生が解説した世阿弥の「老後の初心」という言葉に皆さん、いたく感じ入っていました。続く祝宴では若手筝奏者の大川義秋君が演奏。彼は中村仁樹君率いる「桜Men」のメンバーだそうで、フレッシュな演奏でした。若さというのは何にも代えがたい可能性ですね。

2m

photo 新藤義久

こうして旅が出来るというのは本当に嬉しいです。コロナの時期も私は有り難いことに結構色んな所に行かせてもらっていましたが、琵琶弾きになって何が嬉しいと言えば、全国を旅してまわっている事なんです。年を重ねれば重ねる程、旅があるからこそ生きているという気がしますね。ちょうど1stアルバムを出した40歳辺りからはとにかく旅に次ぐ旅で、毎月必ず一週間程のツアーが入っていて、小さなギャラリーからお寺・ホール等、色んな所で演奏して回っていました。勿論都内でのライブや仕事などもありましたので、結構な忙しさでしたが、何故かその時々で良い方向に導いてくれる方に恵まれ、演奏会の数だけは誰にも負けない(?)位にやって来ました。昔程ではないにしろ、今でも多くの公演をやらせてもらっているのですから嬉しい限りです。
ただ私はエンタテイメント派ではないので、未だにメジャーな所には一向に縁が無いし、有名になる訳でもなく、多くの収入を得てきた訳でもありません。しかし最近とみに「働く事は夢中になる程楽しくなければいかん」という安藤忠雄さんの言葉を思い返します。今までやって来て本当にそうだと思うのです。今邦楽はメジャーデビューをする事や有名になる事、その他賞をもらったり、肩書をもらったりする事に囚われ過ぎているのではないでしょうか。そんな事よりもこの道でこうして飛び回って、やりたい事をやりたいようにやって生きている事の幸せは、何にも代えがたいと私は思うのですが・・。

そして流派で習った曲でもなく、誰かの作ったものでもなく、真似でもなく、全て自分が創ったものを演奏している事に私は大きな喜びと矜持を感じています。

11thジャケット画像7

左:今回のアルバムジャケット 右:2018年の前作「沙羅双樹Ⅲ」の時のレコーディング時 Vnの田澤明子先生と


来月、私の11枚目となるアルバム「塩高和之作曲作品集Vol.3 Voices from Ancient World」がリリースされます。これ迄の2枚の作曲作品集は、CDに入りきれなかったものを中心にオムニバス形式で集めたのですが、今回は全て新録音です。今回もヴァイオリンの田澤明子先生とのデュオを中心に、薩摩琵琶・樂琵琶で録りました。新作も交え、是迄笛や尺八とのコンビでやってきた曲を、若干アレンジを変えてヴァイオリンと演奏しています。初めて使うスタジオでしたので、勝手が違ってちょっと苦労しましたが、まあまあいい感じに録音されています。樂琵琶の独奏曲も入っています。
また今回からはもうCDとしてプレスはせず、ネット配信のみのリリースです。私の作品はこれで約50曲程がリリースとなります。まだまだ録音したい曲が10曲はありますので、これからどんどんと録音・配信を勧めて行きたいと思っています。iTunesやsupotify、レコチョク等々80社程に出していますので、今回の作品も同様に世界に向かって配信されます。是非是非聴いてみてください。

今はネット配信で世界の方が、気軽に私の演奏を聴いてくれていて本当に嬉しいのですが、やはり音楽は目の前でリアルに聴いてこそ音楽として成立するという想いは、年を追うごとに益々感じています。もっと旅を重ね、目の前で是非琵琶の音色を感じて欲しいですね。

これからも旅は続きます。

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